燃料電池自動車(FCV)に燃料の水素を充填する、「水素ステーション」の設備の頑強さには驚いた

東邦ガス株式会社は、名古屋市営地下鉄・名港線の港区役所駅の近くに、「環境と省エネの取り組みによる先進的なまちづくり」をコンセプトとしたスマートタウン「みなとアクルス」を建設しています。「環境と省エネの取り組みによる先進的なまちづくり」を進めるということで、名古屋市の「低炭素モデル地区認定」の第1号となりましたが、敷地内の一角に「水素ステーション」も設置されています。

「水素ステーション」は、CO2(二酸化炭素)を排出しない「究極のエコカー」である燃料電池自動車(FCV)の燃料となる、水素を供給する施設になります。燃料電池自動車(FCV)の創成期でもあり、「水素ステーション」は、全国的に設置数は少ないのですが、東邦ガス株式会社の施設を見学する機会がありましたので概要を紹介します。

みなとアクルス水素ステーション

みなとアクルス水素ステーションは、東邦ガス株式会社が、スマートタウン「みなとアクルス」内に設置している、燃料電池自動車(FCV)に燃料の水素を供給する施設です。まだ、燃料電池自動車(FCV)が少ないこともあり、「エコステーション」として、水素以外に天然ガス(CNG)とLPガス(LPG)の供給もできる施設として整備されています。

水素の製造

水素は、水や化石燃料(一次エネルギー)などの形で多く存在し、様々な方法でつくることができます。また、水素は燃やす時や化学反応で電気を作る時もCO2(二酸化炭素)を排出しないという特徴があります。

そのため、エネルギーセキュリティ(生活や経済活動に必要なエネルギーを許容可能な費用で安定的に確保できること。)の向上に貢献できるクリーンな二次エネルギーとして、利用と普及が期待されています。

燃料電池自動車(FCV:Fuel Cell Vehicle)

燃料電池自動車(FCV)は、燃料電池を用いて、水素と空気中の酸素から電気を生み出し、モーターで走る車です。走行中には水しか排出しないため、「究極のエコカー」として、今後の普及が期待されています。

水素ステーションの方式

燃料電池自動車(FCV)に水素を充填する「水素ステーション」の施設は、主に「オンサイト方式」「オフサイト方式」「移動式」の3つがあります。

「オンサイト方式」は、水素ステーション内で水素を製造し、FCVに充填する方式です。「オフサイト方式」は、水素の出荷設備等で集中的に水素を製造し、水素ステーションに運搬、FCVに充填する方式です。「移動式」は、水素充填に必要な設備一式を大型トラックに積み、あらかじめ定められた場所に移動して、FCVに充填する方式です。

みなとアクルス水素ステーション

みなとアクルス水素ステーションでは、水素サプライセンターで水素運搬容器(水素カ―ドル)へ水素を充填し、水素運搬容器(水素カ―ドル)を車両で運搬し、水素運搬容器(水素カ―ドル)を施設に設置して利用する「オフサイト方式」を採用しています。

水素運搬容器(水素カ―ドル)は3基あり、運搬車両が2基搭載可能であることから、水素運搬容器(水素カ―ドル)は2基ずつ交換しています。

水素ステーションには、水素カ―ドルの水素を82MPaまで圧縮して蓄圧器に貯蔵するための圧縮機と圧力を制御しながら燃料電池自動車(FCV)に水素を充填するディスペンサー(充填機)があります。

燃料電池自動車(FCV)の燃料タンクに水素ガスを急速に充填すると、断熱圧縮により温度が上昇するので、タンク温度が上がり過ぎないように、あらかじめ水素を十分に冷やしてからFCVに充填します。ディスペンサー(充填機)では、水素を-40℃まで冷却しますので、冷却用の冷凍機も必要となります。

みなとアクルス水素ステーションでは、蓄圧器に83MPaで水素を貯蔵するための圧縮機とディスペンサー(充填機)で水素をー40℃まで冷却する冷凍機がー体となったパッケージ品を採用して、短工期と省スペース化を実現しました。

機器が設置されている場所を見せていただいて驚いたのが、「見学者の感想が刑務所のようだ。」というように、数メートルの高さの極厚のコンクリート壁に囲まれていることです。万が一の爆発による爆風と火炎から施設外の人を守るためです。また、すべての水素配管が、水素脆化(水素による配管の腐食)を防ぐため、肉厚のステンレス管を使用しています。そして、屋外にも関わらず、照明器具は水素爆発を防ぐため、防爆仕様となっています。

安全を最重要視している日本では、「水素ステーション」の建設費は4~5億円ですが、外国人の見学者の話では、国外では仕様が緩やかで、2億円程度で設置可能とのことです。

トヨタ車「MIRAI」の水素充填を見せていただきましたが、配管のチャックを接続する感覚で、充填ホースをカチャとはめるだけの簡単接続、水素の量はリットルではなくキログラムで表示されます。「MIRAI」の高圧水素タンクは3層構造(プラスチック、炭素繊維、ガラス繊維)で、満タン充填は3分くらいで完了します。これで、最大650km走行できるようです。

東邦ガスの水素ステーション

技術研究所(東海市)

「技術研究所」の水素ステーションは、オンサイト方式で、中部地区初の都市ガス改質水素ステーションです。2016年3月から、「日進」と「みなとアクルス」の水素ステーションに水素を供給する「水素サプライセンター」が、運用開始しました。

セントレア(常滑市)

「セントレア」の水素ステーションは、オンサイト方式で、中部国際空港セントレア内の燃料電池バス(FCバス)などへ水素供給をしています。愛・地球博(瀬戸市)で使用された水素ステーションの設備を移転したものです。

とよたエコフルタウン(豊田市)

「とよたエコフルタウン」は、オンサイト方式(岩谷産業株式会社と共同運営)の水素ステーションで、水素ステーションとして日本で初めてLinde社製大流量圧縮機を採用しました。

日進(日進市)

「日進」は、オフサイト方式の水素ステーションで、4燃料(ガソリン、天然ガス、LPガス、水素)を扱う日本初のスタンドとして設置されました。

みなとアクルス(名古屋市港区)

「みなとアクルス」は、オフサイト方式の水素ステーションで、「みなとアクルス」内に、天然ガス・LPガスのスタンドとともに新設されました。

FCV・水素ステーション普及に向けた動き

国・業界団体の動き

経済産業省は、「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を作成し、2025年頃のFCV・水素ステーションの自律的普及に向けて、FCV20万台、水素ステーション320か所の目標を示しています。国は水素ステーションの整備費、需要創出活動費、FCV購入費への補助金交付を行っています。

地方自治体(東海三県の2016年度情報)

愛知県

愛知県は「愛知県水素ステーション整備・配置計画」を策定し、2025年度末までに100基程度の水素ステーションを整備する目標を掲げています。

  • 水素ステーションの整備を支援(国の補助金の1/2)
  • 水素ステーションの運営を支援(1ステーションあたり最大550万円)
  • FCV購入を支援

岐阜県

岐阜県は「岐阜県次世代エネルギービジョン」を策定し。2020年度までに10基(定置式5基、移動式5基)の水素ステーションを整備する目標を掲げています。

  • 水素ステーションの整備を支援(1ステーションあたり最大2.8億円)

鈴鹿市

  • 水素ステーションの整備を支援(固定資産税額を翌年度にキャッシュバック)
  • 水素ステーションの運営を支援(用地取得費の5%を5年間に分離して補助)
トヨタ車「MIRAI」の購入
トヨタ車「MIRAI」の販売価格が約730万円ですが、自動車グリーン税制やエコカー減税の他に国の補助金(クリーンエネルギー自動車等導入費補助金)202万円が利用できるので、実質は500万円程度で購入できるようです。地方自治体による独自の補助金(自治体によって内容金額は異なる)もありますので、購入を検討されている方は各自治体にお問い合わせください。