名古屋市の地下鉄は、昭和32年11月に東山線の名古屋・栄町間が開業して以来、順次路線の拡充がはかられ、平成16年10月には、東山線、名城線、名港線、鶴舞線、桜通線、上飯田線の6路線合わせて89.1Kmの営業キロとなり、市内の基幹交通として重要な役割を担っています。
なかでも名城線は、平成16年10月から、地下鉄では国内初の環状運転をしていますが、放射状の路線と相まって、一層便利な交通網となりました。
名古屋市の地下鉄は、Safety,Speedy,Silentの3Sを設計理念としています。名城線を走行する車両の安全を担うために、以前は市役所駅の近くに名城工場がありました。
名城線の環状線化を契機に、名城工場を廃止して、築地口近くの名港車庫を整備して建設されたのが名港工場です。平成16年10月に建設された名港工場は、名古屋市交通局の最も新しい地下鉄車両の整備工場で、地下鉄車両の検査と修繕を行う最新の設備を備えた工場になっています。
名港工場では、「人にやさしく、環境にやさしい」を基本理念に、最新の技術を導入した装置により、安全で事故の無い「安全輸送」を使命に地下鉄車両の検査や修繕を行っています。
名港工場の仕事
名港工場では、名城線・名港線を走行する地下鉄車両の検査と修繕を行っていて、名城線・名港線を走行する車両を地上で見ることができる、唯一の場所です。
地下鉄車両の定期的な検査は、全般検査、重要部検査、月検査、列車検査の4つがあります。また、臨時的な検査や修繕として、臨時検査や改造工事があります。
名港工場では、定期的な検査として、全般検査、重要部検査、月検査の3つの検査を実施しています。また、名城線・名港線でも、東山線に設置された転落防止のホーム柵設置の計画が進んでいて、名城線・名港線を走行する2000形車両をホーム柵対応にするための改造工事が、名港工場で進められています。
地下鉄車両の定期的な検査である列車検査は、ナゴヤドーム前矢田駅の近くの巨大地下車庫となる大幸車庫で実施されています。また、大幸車庫では地下鉄車両の清掃も行われています。
名港工場の施設
名古屋市交通局の名港工場では、名城線・名港線を走行する車両の点検整備を、2つの工場と1つの車庫で実施しています。
修車工場
修車工場では、主に「全般検査」と「重要部検査」が行われています。地下鉄車両の各部をばらばらに分解して点検・整備します。名港工場は、名古屋市交通局にある3つの地下鉄の整備工場の中で、最新鋭の設備が設置されています。
検車工場
検車工場では、主として「月検査」が行われています。地下鉄車両を分解せずに点検・整備します。自動車の車検にあたる検査です。
大幸車庫
大幸車庫では、名城線・名港線車両の留置と、6日を超えない期間ごとに実施される「列車検査」が行なわれています。大幸車庫の正確な場所は秘密で、ナゴヤドーム前矢田駅南の地下にあり、名城線・名港線を走行する2000形車両を31編成186両を留置する能力があります。
名港工場のクレーン
地下鉄車両を点検・整備するには、大きな部品の分解や組み立ても伴うので、名港工場では様々な大きさのクレーンが設置されています。名港工場には、地下鉄車両の車体全体を吊る18tクレーンを始め、6t・2t・1tクレーンが合計11台あります。
天井走行クレーン
クレーンは、地下鉄車両の分解検査時、重量物を吊ることに使用されます。
名古屋市交通局の最新鋭の天井走行クレーンは、デジタルインバータを搭載し、速度制御範囲が定格速度の1/10から2倍までと広く、荷重の大きさに合わせて最高速度が自動的に設定されるので、搬送効率が良く、運転操作時間の短縮につながっています。また、微速運転は、定格速度の1/10と遅くかつ安定しているので、精密な位置合わせが容易にでき、この点でも作業が効率化されています。
名港工場の機器
修車工場では、地下鉄車両を分解して点検・整備するため、多くの機器や支援装置が導入されています。
主電動機気吹き・分解組立支援装置
主電動機気吹き・分解組み立て支援装置は、地下鉄車両の主電動機の分解・組み立てを支援するとともに、気吹き清掃をロボットを使用して行います。
主電動機の分解・組立支援作業は、主電動機の固定子・回転子の分解・組立が容易にできるように作業者を支援します。
気吹き作業は、ブース内のロボットによりブラシ作業および気吹きを自動運転により行います。
各作業を行う場所の間を、分解された固定子・回転子が専用のパレットで電動搬送され、効率よく点検・整備が行えるようになっています。また、気吹き作業をブース内で行うことにより作業者にやさしい作業環境となっています。
ベアリング洗浄装置
ベアリング洗浄装置は、主電動機用ベアリングを自動洗浄するもので、回転ブラシとジェット洗浄を組合わせた洗浄方式を採用しています。主電動機用ベアリング内部のグリスを確実に除去し、最大8個までのベアリングを自動的に洗浄します。
台車回転試験機
台車回転試験機は、地下鉄車両の検査・修繕後の台車の状態を確認する装置です。台車下側を電動ジャッキで持ち上げて固定架に押し付けることで、台車を浮かせた状態にします。動台車では主電動機にインバータ出力を与えることで、従台車では車輪に押し付けた軌条輪を回転することで輪軸が回転します。この時の台車の状態を、温度・振動・速度発電機出力の測定等で確認します。さらに、荷重負荷時のばねのたわみ測定・空気ブレーキの動作確認・差圧弁圧力測定が可能です。
台車枠洗浄装置
台車枠洗浄装置は、自動運転にて、台車枠や輪軸などの車両用台車用品に高圧温水を噴出して洗浄する装置です。洗浄能力が優れているのはもちろん、自動運転により短時間で洗浄が可能であり、ブース内で作業を行っているため、作業者にやさしい作業環境となっています。
排出水処理装置
排出水処理装置は、台車枠洗浄装置から排出された油を含んだ汚水を、高性能脂吸着材を使用したろ過吸着方式にて自動運転で処理します。さらに処理後の水を台車枠洗浄装置に戻し、再利用することが可能で、環境に配慮したシステムになっています。
列車集塵装置
列車集塵装置は、検査のため工場に地下鉄車両が入場する時に、車両の床下に付着している塵埃を圧縮空気を使って気吹き清掃します。この時発生する塵埃を拡散させないように防塵カバーと集塵機で処理しています。
空気圧縮機
空気圧縮機は、修車工場内で作業等で使用する圧縮空気を作るものです。
車輪転削装置
電車の車輪は、長い間走行することにより、また、空転滑走をしたことにより形が新製時からずれ、電車の乗り心地や走行安定性が悪くなります。車輪転削装置は、車輪を削り、新製時の形にするものです。名港工場の車輪転削装置は、検車工場に設置されています。
車両移動機
車両移動機は、工場施設内で、地下鉄車両の電源を入れないで、移動させる時に、車両と連結して使用します。
(出典は、名古屋市交通局監修の「名港工場」パンフレット)
名港工場の番外編
津波や高潮から地下トンネルの入口を守る「防潮扉」
名港工場の検車工場の西側には、名港線と連絡する地下トンネルの入り口があり、名港線の名古屋港駅につながっています。名古屋港に近いこともあり、津波や高潮で工場内が浸水した場合、名港線と連絡する地下トンネルが浸水しないように、トンネルの入り口をふさぐ「防潮扉」が設置されています。
この「防潮扉」は、かなりの重量物で、設置当時は地下鉄車両を利用して開閉していたのですが、電動による開閉に改良されました。停電時には電動操作ができないので、手動による操作で開閉できるようにもなっています。
名城線・名港線を走行する「地下鉄車両の搬入口」
名城線・名港線の施設で、唯一、地上にある施設が名港工場です。名城線・名港線を走行する地下鉄車両の搬入と組立は名港工場で行われます。完成した地下鉄車両は、地下トンネルを通って名古屋港駅まで走行し、名城線・名港線を走行する地下鉄車両として使用されます。
名城線・名港線の線路とトンネルを保守する「軌道事務所」
名城線・名港線の線路とトンネルを保守する軌道事務所も名港工場内にあります。夜間、線路やトンネルの点検や補修のため、名港工場から保線作業員が出かけていきます。保線に必要な線路や枕木なども名港工場から地下トンネルを経て、作業現場に運ばれます。
地下鉄車両の車輪が長年の走行や滑走で、形が新製時からずれ、電車の乗り心地や走行安定性が悪くなったとき、車輪転削装置で車輪を削り、新製時の形にします。同様に、線路も長年地下鉄車両の走行や滑走により、線路の形が新製時からずれ、地下鉄車両の乗り心地や走行安定性に悪影響を与えることがあります。
線路は取り外して削ることができないので、走行しながらレールを削ることができる「レール削正車」を使用します。名城線。名港線では「16頭式レール削正車」が使用されていて、搬入と組立が名港工場で行われています。
名港工場内の地下鉄車両の運行を統括する「名港操車」
名港工場内の地下鉄車両の運行を統括するのが、名港操車という部門です。工場内の車両の運行はもちろんのこと、車両故障時の予備車の運行管理や、「海の日名古屋みなと祭」などの臨時列車の運行管理も行っています。
名城線・名港線では、車両故障時の予備車やイベント開催時の臨時列車は、状況に合わせて大幸車庫と名港工場の双方から出庫するのです。
名古屋市科学館の理工館3階「技術のひろがり」の「街ではたらく機械ゾーン」に、「モノづくり都市パノラマ」や「電車」という展示品があり、名古屋の経済や交通をささえる、市営地下鉄やJR、名鉄などの車両も紹介されています。