名古屋市科学館がリニューアルして年間入館者数を140万人に倍増できた理由

名古屋市科学館建替えプラン2010

ギネス世界記録に認定された世界最大の直径35mのドームに設置されたプラネタリウムを始め放電ラボや極寒ラボなどの大型展示を有する名古屋市科学館は大変魅力的ですね。その他の展示物も200点以上もあります。

名古屋市科学館は、天文館と理工館が2011年にリニューアルされて、年間入館者数が70万人から140万人へと倍増しました。科学館の中で、年間入館者数140万人というのは、東京の国立科学博物館の220万人に次いで、日本で第2位です。

名古屋市科学館がこれだけの入館者数を達成できたのは、世界最大のプラネタリウムドームと4つの大型展示などの目玉展示を設けるなど、周到な戦略があったからなのですが、それを解明していきましょう。

目 次

旧名古屋市科学館の問題点

旧名古屋市科学館で最も懸念されたのが、1962年(昭和37年)建設の天文館と1964年(昭和39年)建設の理工館の耐震基準に対する数値の低さでした。

また、天文館、理工館、生命館と独立して建てられたため、理工館と生命館では階数の床の高さが合っていないなど、3館を連携して使用するには使い勝手が悪かったのです。

理工館は9階建てでしたがビジネスビルのような仕様で、天井高が低く大型の展示物が展示できません。また、床面の耐荷重も低いので、1階以外は重量のある展示物が展示できないなどの問題もありました。

特別展の開催時は、天文館1階の床面積では会場面積が足りないので、理工館1階の展示物を移動させて会場面積を確保しなければなりませんでした。

名古屋市科学館のリニューアル計画

名古屋市科学館のリニューアルは、2004年(平成16年)頃から検討され始めました。館内に新館検討委員会をおき、担当の事務職員が資料のまとめをしていました。

新館検討委員会は、展示品を検討する学芸部門と建物を検討する事務部門に、館長、副館長を交えて、定期的に開催されました。専門職の学芸員と事務・技術職員は日常的に新館の構想を練り、職員一丸となって取り組みました。

新館建設にあたっては、多額な建設費を投ずることから、名古屋市科学館の基本理念をもとに、学術性だけでなくエンタテイメント性も付加し、入館者数を増加させることが求められました。入館者数の目標は、過去の年間入館者数である年間70万人の1.4倍の、年間100万人に置かれました。また、新館の建設費は、150億円が想定され、2006年(平成18年)には、「名古屋市科学館理工館・天文館改築基本構想」として改築内容がまとめられました。

「名古屋市科学館理工館・天文館改築基本構想」における基本方針

「名古屋市科学館理工館・天文館改築基本構想」における基本方針は、「世界一のプラネタリウムと大型展示を備えた世界屈指の科学館として整備し、学習施設であると同時にエンターテイメント性豊かな全国レベルの観光拠点として、年間入館者数100万人を目指す。」という内容です。

  1. 科学の面白さを感じることのできる科学館
  2. 何度も行きたくなる科学館
  3. 科学好きの子どもを育てる科学館
  4. 地球環境時代の科学館
  5. 連携する科学館

「名古屋市科学館理工館・天文館改築基本構想」における建物

「名古屋市科学館理工館・天文館改築基本構想」における建物の整備場所は、既存の生命館と機能的に連結できるよう、科学館北側の駐車場(白川公園北駐車場)とし、整備に際してはできる限り現施設を運営しながら新館を建築するという内容です。

また、規模は、プラネタリウムドームの大型化、ダイナミックな体験型展示展示の導入、市民科学活動の拠点スペースの設置、児童・幼児向け展示の充実及び実験・工作室の拡充など学習支援機能の強化を実現するため、現理工館・天文館の延床面積以上とするとしています。

「名古屋市科学館理工館・天文館改築基本構想」における展示品

<目玉展示>

「名古屋市科学館理工館・天文館改築基本構想」における目玉展示品は、次のようなものです。

ウォーターアトラクション

大水槽で水車・サイホン・ポンプなどを使った水遊びや水流・水滴の観察、ウォータースクリーンなどの体験。

水のひろば
「ウォーターアトラクション」の構想を基に、大型展示品の「水のひろば」がつくられました。
虹の部屋

つかめそうでつかめない巨大な虹、光環、光輪等を、上から。足元から、視点の移動によってさまざまに変わる様子を体験。

竜巻

局地的に起こる激しい空気のうず巻きの力で、いろいろなものが巻き上げられる現象を見せ、そのメカニズムを知る。

竜巻ラボ
「竜巻」の構想を基に、大型展示品の「竜巻ラボ」がつくられました。
スパークランド

金属製のチューブの通路の中で、高圧放電による落雷を体験。

放電ラボ
「スパークランド」の構想を基に、大型展示品の「放電ラボ」がつくられました。
極寒の世界

マイナス20℃の空間で雪の結晶・ダイヤモンドダストなど自然現象を再現する実験を行う。

極寒ラボ
「極寒の世界」の構想を基に、大型展示品の「極寒ラボ」がつくられました。
G(重力加速度)の世界

大きな円筒型の壁面を回転させながら床を下げていっても、壁面に押し付けられて中の子どもたちは落ちない。この力(遠心力)を体験。

<プラネタリウム>

「名古屋市科学館理工館・天文館改築基本構想」におけるプラネタリウムの内容は、本来の星空が失われた都会のなかで満天の星を疑似体験することによって、自然の美しさや素晴らしさを市民一人ひとりが再認識し、自然を理解する手がかりや「宇宙の中の人間」を考えるきっかけを与えるものとなっています。

  1. 「限りなく本物に近い星空」を再現
  2. 学芸員が見学者に語りかけるプラネタリウム
  3. リラクゼーション効果も期待できる空間
プラネタリウムドーム
  1. 内径35m以上の大型水平ドーム
  2. ゆとりある座席
プラネタリウム本機
  1. シャープで明るい星空であること
  2. 人間が見ることのできる星を、本物の星空と同じような自然な諧調で表現
周辺機器

「地上で見上げる星空」から「宇宙空間」までを表現するため、効果的な周辺機器を導入

  1. 宇宙空間を飛行するイメージが表現可能であること
  2. 宇宙空間の諸現象をドーム内にリアルに再現できること
付帯施設
  1. 防音ガラス張りの特別観覧室の設置
  2. バリアフリー機器の充実

<展示構成>

「名古屋市科学館理工館・天文館改築基本構想」における展示構成は、次のようになっています。

体感空間

家族で楽しめる参加・体験型展示を行う。

理工館2階「ふしぎのひろば」
「体感空間」の構想を基に、理工館2階「ふしぎのひろば」がつくられました。
動の空間

ものづくりに必要な基礎的な原理、法則を紹介し、生活の中で使われている製品、技術等をものづくりの視点から理解できる展示を行う。

理工館3階「技術のひろがり」
「動の空間」の構想を基に、理工館3階「技術のひろがり」がつくられました。
知の空間

基礎的な科学の原理、法則等を紹介しながら、理学、工学分野の基礎が学習できる展示を行う。

理工館4階「科学原理とのふれあい」
「知の空間」の構想を基に、理工館4階「科学原理とのふれあい」がつくられました。
話題の空間

話題の先端科学・技術、連携する研究機関の研究成果を展示する。

理工館6階「最新科学とのであい」
「話題の空間」の構想を基に、理工館6階「最新科学とのであい」がつくられました。

名古屋市科学館のリニューアル内容

2006年(平成18年)にまとめられた「名古屋市科学館理工館・天文館改築基本構想」から改築内容が精査され、2008年(平成20年)には、プラネタリウムをランドマークとする、天文館・理工館・生命館の3館構成の科学館として整備されることになりました。

展示品についても、目玉展示が精査され、「極寒ラボ」、「放電ラボ」、「竜巻ラボ」、「みずのひろば」の4つの大型展示になりました。

名古屋市科学館の集客施設戦略

<目玉展示>

テーマパークなどの大型施設で集客を図るには、お客様を引き付ける目玉が必要です。科学館では目玉展示ということになります。来館者の多様なニーズを満たすには複数の目玉展示が必要です。

名古屋市科学館の新館検討委員会では、世界最大のプラネタリウムドームと複数の大型展示を目玉展示としました。

プラネタリウム(天文館6階)

限りなく本物に近い星空を再現するには、できるだか大きなプラネタリウムドームが必要とのことで、当初は直径50mのドームという声もありましたが、建設場所のスペースや予算規模から、最終的には直径35mのドームに落ち着いたようです。それでも世界最大の直径のプラネタリウムドームとなりますので、目玉展示の意味は大きいですね。プラネタリウムのプログラムも、幼児から大人まで楽しめるように、月ごとにテーマが変わる一般投影以外に、ファミリーアワー、幼児投影、学習投影などが用意されています。

極寒ラボ(理工館5階)

マイナス5度の寒さと35度の暑さは、生命館3階の「熱い部屋・寒い部屋」で体験できます。子どもから大人まで楽しめる、人気の展示です。では、寒さについて極地のオーロラが観察できる地の寒さが体感できたらインパクトが大きいのではないかとしてつくられたのが極寒ラボです。当初はマイナス40度を想定していたのですが、設備やランニングコストが過大となることからマイナス30度の部屋に落ち着きました。マイナス30度でも5分間滞在すると、その寒さは身に沁みますね。

放電ラボ(理工館4・5階)

放電については、旧科学館でもバンデグラーフ起電機による放電や静電気の実験が行われていました。バンデグラーフ起電機に鉄球を近づけるとパチパチという放電を見ることができ、好評でした。では、この放電が本物の雷に近いものであれば、かなりインパクトがあるのではないかとの思いから、テスラコイルによる120万ボルトの放電を見せる展示が考えられました。120万ボルトの放電はバチバイという轟音と稲妻は大迫力ですね。

竜巻ラボ(理工館3・4階)

生命館2階に「飛び出す雲のリング」という展示があります。展示品の上部を押すと、白い雲のリングが飛び出す展示品で大変人気があります。2つのフロアーを上に昇る竜巻が見られたら迫力がありますね。そんな考えから生まれたのが、9mの竜巻が見られる竜巻ラボです。

水のひろば(理工館2・3階)

「幼児から大人まで楽しめる。」をキャッチフレーズにしている名古屋市科学館ですので、幼児でも楽しめる大型展示品もあるとインパクトが大きいとの考えからつくられたのが「水のひろば」という大型展示です。夏には涼感も感じられ、大人の方も楽しめます。

<展示室>

フロアー毎に展示テーマを設定し、大小の展示品でメリハリを持たせています。幼児から大人まで楽しめるように展示の工夫をしています。良いものは残していく方針で、旧科学館で人気だった「懐かしの展示品」も、リニューアルした新館で展示されています。

  • 理工館2階「不思議のひろば」
  • 理工館3階「技術のひろがり」
  • 理工館4階「科学原理とのふれあい」
  • 理工館5階「物質・エネルギーの世界」
  • 理工館6階「最新科学とのであい」
  • 天文館5階「宇宙のすがた」
  • 理工館地下2階「特別展示室」
専用の特別展示室

理工館の地下2階に、待望の「特別展示室」が設けられました。少し手狭ですが、展示品を移動させて、特別展の展示スペースを確保する必要がなくなりました。旧科学館では、年1回の特別展と企画展が開催されていましたが、専用の特別展示室が設けられて年数回の特別展と企画展が開催できるようになりました。

展示室のテーマ

下のフロアーから上のフロアーに向かってだんだん難しいテーマになっていく構成です。天文館では「パワーズオブテン」をキーワードに、宇宙の広がりを指数関数的に感じてほしいという展示内容になっています。ミクロな素粒子からからマクロの宇宙の果てまでのスケールを「パワーズオブテン」で表現しています。

科学館の先進性

理工館6階「最新科学とのであい」に「話題の科学」ゾーンができ、先端科学を2つ紹介しています。(1つではなく2つというのは、学芸員へのいい意味でのプレッシャーになっているのかもしれません。)

連携する科学館

科学に関する資料や装置に関して調査研究を行い、その成果を反映することにより科学館の充実を図ることを目的に名古屋市科学館企画調査委員がみえます。委員は、館長の依頼を受けて、科学館資料の収集や展示の調査研究、その他の科学館資料の専門的事項の調査研究に関することを処理しています。委員の定員は16名ですが、現在は14名の方に委嘱していて、青色LEDの開発でノーベル物理学賞を受賞した名古屋大学の天野浩さんもみえます。

名古屋市科学館の建物戦略

<建設費の縮減>

既存建物の有効利用と、工期の短縮、工事費用の縮減を念頭に改築の工程を考えています。

生命館の取り扱い

1989年(平成元年)に建設された生命館は、1981年(昭和56年に)改訂された建築基準法の耐震基準を満たしているため、改築せずに新たに建設する理工館と天文館と接続し3館を一体として利用できるように整備しています。この方針から、新たに建設する理工館と天文館の床面は既設の生命館の床面と高さがそろえられました。

旧天文館と理工館の地下部分

旧建築物の有効利用、旧建築物の解体工期の短縮、解体費用の縮減を図ることを目的に、旧理工館と旧天文館の地下部分をクールヒートトンネルと雨水貯留槽として活用することにしました。

スムーズな建替え

来館者の不便な期間を最小限とするとともに観覧料収入を最大限確保するため、新館は旧理工館と天文館の北側の駐車場(白川公園北駐車場)部分に建設し、ぎりぎりまで旧理工館と天文館を運営すしています。

これにより、新館への切り替え期間は最小限の半年程度となりました。新館への切り替え期間中に、名古屋で生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開催されたましたが、臨時に生命館のみ開館しました。

<見せる展示>

新館部分では、ランドマークとなるプラネタリウムドーム、建物や設備の構造が外からでも見える部分をつくるなどの見せる手法を取り入れています。

ランドマークの設定

名古屋市科学館のランドマークとして、プラネタリウムドームが長島町通りからもっともよく見えるように、建物のレイアウトを設計しています。

建物の構造を見せる

科学館の本領発揮で、建物の構造の一部を見せることで物の構造に興味を持たせる取り組みが行われています。「制振ダンパ」が解説付きで展示品になっています。その他、エスカレータの3階部分は側面が透明になっていて内部が見られます。エレベータや階段もシースルーとなっています。太陽電池パネルの裏面や壁面緑化のプランターなども屋内からガラス窓を通して観察できます。

リニューアル後の名古屋市科学館

名古屋市科学館の新館は2011年3月19日に開館し、半年後の10月には入館者数100万人を達成するほどの人気となりました。

名古屋市科学館の入館者数

新館が開館した2011年度は、最終的な年間入館者数は150万人を記録し、計画の1.5倍を達成しました。

名古屋市科学館の安全面での配慮

新館の設計入館者数100万人を大幅に超えたため、入館者の整理に多大な労力を割くことになりました。また、観覧者が入館するのにも数時間待ちの状態を作ってしまいました。

混雑時のエスカレータ利用は、エスカレータを降りる階で渋滞が生じると、将棋倒しになって危険との判断から、エスカレータの使用を制限せざるを得ない場合もありました。

名古屋市科学館がリニュアルに成功した理由

名古屋市科学館がリニュアルに成功した理由は、

  • 名古屋市科学館のすべての職員が参加して、リニューアルの計画を立案し、実行した。
  • 世界一のプラネタリウムを目指して計画を立案し、実行した。
  • 利用者ニーズに基づく複数の目玉展示(大型展示)の計画を立案し、実行した。

の3つです。