世界で最も高い熱効率63.08%を達成し、ギネス世界記録に登録された中部電力の「西名古屋火力発電所」を紹介

名古屋市科学館にはギネス世界記録に認定された世界最大の直径35mのドームに設置されたプラネタリウムがありますが、中部電力には世界で最も高い熱効率63.08%を達成してギネス世界記録に登録された火力発電所があります。

その火力発電所は、名古屋市の隣、海部郡飛島村にあり、最近リニューアルされた中部電力の「西名古屋火力発電所」です。世界で最も高い熱効率63.08%は、2017年、7-1号機が建設運転時に記録したものです。

これまでの発電施設における最高効率のギネス世界記録は、フランスで2016年に稼働した「ブシャン火力発電所」に設置された、GEのHAガスタービンを用いたコンバインド・サイクルの発電設備で、熱効率62.22%でした。

「西名古屋火力発電所」のあらまし

中部電力の「西名古屋火力発電所」は、1970年に1・2号機の営業運転が開始され、順次6号機まで設備が増強され、合計発電出力219万kWの石油火力発電所として、高度経済成長期を含め、40年以上にわたり、名古屋市およびその周辺地域の電力の安定供給に大きな役割を果たしてきました。

その後、老朽化した石油火力発電設備はすべて撤去され、2018年に液化天然ガス(LNG)を燃料とする、合計発電出力237万6,400kWの「高効率コンバインドサイクル発電所」として生まれ変わりました。

液化天然ガス(LNG)を燃料とする「高効率コンバインドサイクル発電所」は、通常の石油火力発電所と比較すると、燃料の消費量と二酸化炭素の排出量が削減され、経済性と環境性に優れています。

熱効率の世界記録を樹立

中部電力の「西名古屋火力発電所」は、世界で最も高い熱効率63.08%を達成してギネス世界記録にも登録され、低炭素で良質なエネルギーを安価で安定的に供給できるすばらしい「LNG火力発電所」として運用されています。


(2018年3月27日に中部電力㈱本店で行われた合同記者会見時の写真、左が中部電力の勝野社長、右は東芝の細川社長)

コンバインドサイクル発電は、発電用のガスタービン運転時に発生する排熱を回収して蒸気に変え、その蒸気の力で蒸気タービンを回してさらに電力を作るシステムで、優れた発電効率が実現します。

中部電力の「西名古屋火力発電所」では、GEの最新鋭のHAガスタービンと東芝の優れた蒸気タービンを組み合わせることで、世界最高の熱効率を達成しています。

火力発電設備における「熱効率の推移」

石油火力の熱効率は40%台でしたが、最新のLNG火力では60%台となり、1.5倍も向上しています。これは、ガスタービンの耐熱温度が1,600℃まで上がり、達成されたものですが、タービンの材質やタービン翼の冷却方法などについては、GEの企業秘密となっているそうです。

火力総合熱効率(発電端)も、40%から49%と1.2倍に向上しています。

「西名古屋火力発電所」のあゆみ

石油火力としてスタート

中部電力の「西名古屋火力発電所」は、1970年に1,2号機(各22万kW)の石油火力としてスタートしました。

その後、1972年には3・4号機(各37.5万kW)が営業運転を始め、1974年には5号機(50万kW)、1975年には6号機(50万kW)と設備を増強し、1975年には発電出力の合計は219万kWになりました。

2002年からは、老朽化した設備を順次廃止し、2015年にはすべての石油火力発電設備の撤去が終了しました。

LNG火力へリフレッシュ

「西名古屋火力発電所」のLNG火力へのリフレッシュは、2010年に計画が公表され、2014年から7号系列の工事が開始されました。

2017年に7-1号機(118.82万kW)が営業運転開始、翌2018年には7-2号機(118.82万kW)も営業運転が開始されました。

2018年3月には、7-1号機が建設運転時に記録した熱効率63.08%が、ギネス世界記録に登録されました。

「西名古屋火力発電所」のしくみ

「西名古屋火力発電所」の7号系列は、3台のガスタービンと1台の蒸気タービンを組み合わせた「コンバインドサイクル発電方式(複合発電方式)」を採用しています。

最初にガスタービンで発電を行い、次にガスタービンで発生する高温の排気ガスの排熱を利用して、水を沸騰させて蒸気を作り、蒸気タービンで発電を行います。

「コンバインドサイクル発電方式」は、同じ量の燃料でも、ガスタービンと蒸気タービンの両方で発電することで、より多くの電力を作ることができる優れた発電方式です。

「西名古屋火力発電所」の7号系列は、118.82kWを発電する「コンバインドサイクル発電設備」が2系列あり、合計で237.64kWの発電能力があります。

ガスタービン

ガスタービンは、圧縮した空気を混合して燃焼させ、高温(1,600℃)の燃焼ガスによりガスタービンを回転させ、直結した発電機で電気を作ります。

廃熱回収ボイラ

廃熱回収ボイラは、ガスタービンで発生する高温の排気ガスの熱を利用して蒸気を作り、蒸気タービンへ送ります。廃熱回収ボイラには、排気ガス内の窒素酸化物を低減するための「排煙脱硝装置」も組み込まれています。

蒸気タービン

廃熱回収ボイラから送り込まれた高温・高圧の蒸気で蒸気タービンを回転させます。「西名古屋火力発電所」に設置された蒸気タービンは、タービン翼の長翼化等により高効率化が実現しています。

発電機

発電機は、ガスタービンや蒸気タービンと直結されていて、電気を作ります。発電機で作られた電気は、変圧器でさらに電圧を上げて、各地へ送電されます。

燃料ガス導管

発電所の燃料となる天然ガス(LNG)は、燃料ガス導管により送られてきます。燃料ガス導管は、名古屋港の対岸にある知多火力第二発電所で分岐し、名古屋港を横断する海底シールドトンネル(海底下30m、総延長6km)の中に埋められています。

天然ガス(LNG)は高圧で送られるため、「燃料ガス導管」のパイプの直径は50cm程で意外に細かったですが、万一の障害に備えるため、2本引き込まれていました。

建設時に排出される掘削残土は、通常、外部に搬出されるのですが、「西名古屋火力発電所」の場合は、多数の残土搬出トラックで周辺に迷惑をかけることのないように、発電所の敷地内に積み上げて、緑地として利用しています。

通常の火力発電所をイメージすると100mを超える煙突が思い浮かびますが、「西名古屋火力発電所」の煙突は80mです。高い煙突は迫力がありますが、景観を損なう場合もあります。
「西名古屋火力発電所」は、液化天然ガス(LNG)を燃料とし、脱硝設備の完備や、煙道を通過する気体の温度を100℃程度とすることで、低い煙突でも周辺環境を悪化させない設計となっているそうです。
火力発電所としてはあまりにも煙突が低いので、「西名古屋火力発電所」を訪れる方から、「高い煙突というランドマーク(目印)がないので迷ってしまう。」という声も聞かれるとのことです。

中部電力の「火力発電所」

中部電力の主要な「火力発電所」は、上越火力発電所を除くと、最も電力需要の多い名古屋市周辺に配置されていることがわかります。また、環境負荷の少ない「LNG火力発電所」が多いこともわかります。

(すべての写真と図表の出典は、中部電力株式会社「西名古屋発電所」のパンフレット)

地震の影響で停止している浜岡原子力発電所がある中で、高効率で環境負荷の少ないLNG火力発電所の重要性が高まっています。世界最高効率を達成した「西名古屋火力発電所」は、中部電力の主力発電所として電力の安定供給に寄与していくことでしょう。

名古屋市科学館の関連展示
理工館5階「物質・エネルギーの世界」の「エネルギー」ゾーンに「私たちの主な電気エネルギー源」という展示があり、「火力発電設備の仕組み」も詳しく説明されています。